討ち死に覚悟で真剣勝負を挑んでみたものの、あなたは刀すら抜いてくれませんでした。全く自分の力不足を痛感します。でも、全力を尽くしたのだから悔いはありません。私の"さらけ出す"様があなたの目にどのように映ったのかわかりませんが、私にとってあれ以上の幸福はありませんでした。だからそのようなチャンスを下さったあなたに感謝します。
 あなたのすすめてくれた本を読みながら、あなたの目の中にある限りない優しさを思いました。ひょっとしたらあなた自身、自分にそのような優しさがあることに気づいていないのではないでしょうか。それはあなたが小さい時、あまりにも悲しい思いをしたからなのでしょうか。だとすればあなたに必要なのは気の利いた言葉などではなく、あなたを心から愛してくれる優しい伴侶なのかもしれません。
 夜、息子を寝かしながら言いました。
「ママ、今日泣いてごめんね。」
「ママどうして泣いたの?」
「さあどうしてかしら?」
「誰かが帰ってきたからだよ。」
誰か帰ってきたから?」
「そう。」
 その「誰か」って、誰のこと?と聞こうとしたら、息子はもう深い眠りに落ちかかっていました。そう言われれば遠い昔、ずっと待っていたのについに帰ってこなかった人がいたような気がしました。その人があなただったのでしょうか。でも一体私は誰を待っていたのでしょう?
 あなたをこの世に送り出してくださった、あなたのご両親に感謝します。
          
  1992.6.1

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