私はあなたのことを何も知らない。考えてみれば本当に何も・・・私が知っていることと言えば、あなたの生年月日、高校の名前、大学で○○学(?)を学んだこと・・・あなたがどこの大学に行ったのかも知らないし、どんな食べ物が好きなのかも、毎日どんな生活をしているのかも・・・何も知らない。あなたの顔すら思い出せない。ただ、○○○○○に印象的なほくろがあったこと以外は(あなたはお母さん似ね)。それから・・・・・。
 何も知らなくても全然かまわない。でも、知りたくないか、と言うと、そうではない。和を生んだ直後頃から、私の精神状態がひどくおかしかったとき、私はあなたのことが知りたくて気が狂いそうだった。朝起きてから夜寝るまで何をしているのか、いちいち全部知りたくて・・・でもそんなことを知ろうとしない自分も同時に存在していた。あの頃の私も確かに本当の私だ、と思う。
 あなたはどうなのだろう? あなたは私のことを知りたいのだろうか。あなたは私のことを少しは知っている。経歴も知っているし、私が生活している空間を見たこともある。でももちろん知らないことも多い。あなたが知ったら一番不快に思うかもしれないと思うことは、私が怠け者で掃除がへただということだ。仕事にしろ、掃除にしろ、一度やる気になったらとことん徹底的にやるのだが、気が乗らないとただ毎日ボーっとしてちらかった部屋で過ごしているのだ。あなたが、”俺はお前が嫌いだ”と言ったとき、私の”なぜ?”という問いかけに、あなたがもし、”怠け者で掃除がへただからだ”と答えたら、私は本当に納得して引き下がってしまったことだろう。
 私はあなたのことを何も知らないのに、私はあなたの何が好きなのだろう?
目が好き・・・私はあんなに美しいものを見たことがない。私がこの世で見たものの中で最も美しいものはあなたの目。じゃあ、将来、それより美しいものを見ることはあるだろうか。もちろんあるだろう。それもやっぱりあなたの目!あなたの目の中の深い悲しみが深い歓びに変わるとき。あなたの中の壊れやすさが強さに変わるとき。
 じゃあ、私が好きなのはあなたの目だけ?もちろん違う。声も好き。声だけじゃなく、顔も身体もみんな。あなたの裸って、ものすごく美しいだろうな・・・と思う。 
 私が好きなのはそれだけじゃない。私の中の、誰も怖くてはいってこれないような所に、はいって来れる強引さ。私が苦しそうな顔をしたら、みんな私を気づかって(実は気づかうふりをして、本当は怖くて)引き返してしまうようなところから、はいって来れるのはあなただけだ。私がどんなに苦しんでも、あなただけはその苦しみの底にある歓びを見てくれる。私が、実はあなたに苦しめられたいのをわかってくれる。痛すぎて自分ではあけられない扉を強引にこじあけて、私の一番奥にある究極の淋しさを満たしてくれるのはあなただけだ。
 あなたに会えたら、私はあなたの前で醜態をさらすだろう。あなたに私のすべてを捧げたくて。あなたに何もかも捧げ尽くしてそれでも尽きることなくますます溢れ出す愛をどうしていいかわからなくて。そんなふうに醜態をさらす私を、あなたはきっと醜いとは思わないだろうね。
           7  28         今日子 

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