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困ったときのヒント

他人の目が気になってどうしようもない、という究極的に自信のない若者と、全く他人の目が気にならないように見える少年に会った。

若者の方は、とてもいい感性をしているのだが、とにかく自信がなくてやることなすことうまくいかない。鈍感な人が多い世の中では、いい感性を持った人はとかくいろいろなことで世の中とぶつかることが多い。そのとき自分に自信さえあれば、世の中の方を変えていける力を持つこともできるのだが、自分に自信がないと、ただ他人を不愉快にするだけで終わってしまう。彼はまさにその典型であった。そしてその状況からなんとか抜け出したいともがいていた。

そこで、私は少年の方に訊いてみた。
「あなたは他人の目を全く気にしないように見えるけど、どうしたらそんな風になれるの?」

意外にも彼はこう答えた。

「僕は、実は、少し前まで、物凄く他人の目を気にしていたんですよ…でも、人目を気にしすぎて、どうしようもなく辛くなって、疲れ切ってしまって、あるとき、やっとこう思えたんです。『そうだ。大切なのは自分がどう思うかだ』って。それから全く他人が自分をどう思うかなんて気にならなくなりました。」

そうか、少年は悩み抜いたからこそ、本当の自信を得ることができたんだな。それで私は若者にこう言った。

「あなたはまだ人の目を気にし足りないのよ。もっともっと気にして、疲れ切りなさい。」

何かよくない状況に陥っているとき、そこから抜け出すヒントがここにある。それは、「悪い方にとことん行ってしまうこと。」そうすれば必ずいつかは底を打って反転することができる。でも、そうするにはかなりの勇気がいる。ある意味で「死ぬ覚悟」が必要だ。このまま悪い方に突き進んだら、自分は破滅してしまうのではないか、と心配になってしまうからだ。

ここで、私の父の話をしたい。

父は釣りが好きで、若いころ、真冬の伊豆の岩場で海釣りをしたことがあった。あいにく天候は荒天で、風は吹き荒れ、波は荒れ狂っていた。そんなとき、こともあろうに風にあおられて海に落ちてしまったのだ。

仲間たちはもうだめだと思ったという。ところが本人は案外冷静であった。海に沈んでいきながら父はこう考えた。
「ここは岩場だから、下は固い岩盤だろう。今浮き上がろうとするよりは、下に沈んでから思い切り蹴りあがった方が良さそうだ。」

底に沈むまで、5メートル位はあっただろうか。父はその間じっと耐え、足が底に着いた瞬間、思い切り蹴り上がって見事に浮かび上がり、助かったという。

もしも、下に沈んでいるのに、その流れに逆らって上に上がろうとしてもがいたら、浮かび上がることができずに力尽きて溺れてしまっただろう。父は沈むに身を任せて底を打ったからこそ、助かることができたのだ。この話はいろいろな示唆を与えてくれる。

窮地に陥っている人の多くは、父のように海に沈んでいく人たちである。一番辛いのは、底が間近に迫っているのに、それに気づかない人たち。息苦しくなって、今にも死んでしまいそうだ。一刻も早く浮かび上がりたい。でも、そのときできる最前の方法は、「必ず底があると信じて、沈むに任せること」なのだ。底まで行きさえすれば、沈む力は消滅して、すべての力を浮かぶために注ぐことができる。けれども、その前に浮かび上がろうとしても、沈む力と相殺されて、さらに辛くなるだけだ。

窮地に陥った人は、是非この話を思い出して欲しい。私もときどき思い出しては、自分を勇気づけている。

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