月○○○様

あなたに再び手紙を書くことがあるとは思っていなかった。何度も何度もこれが最後だと心に決めて、あるいはもう決して書くことはないだろうという予感の中で手紙を書いたのに、それでもまた書き始めている・・・・これが最後かどうか分からない。いや、それよりもこの手紙をあなたが読んでくれるかどうかすらもう自信が持てない。
  あなたに"初めて"出会ったときのことを思い出している。あの頃の私はただ、あなたの行く道を邪魔したくない、という思いだけだった。なぜか自分があなたの足を引っ張ってしまいそうな気がして・・・旅立つあなたを無事に見送ることができさえすればそれで幸せだった。あなたの美しい目に出会えたのだから。言葉では言い尽くせないほどの深いやさしさと深い悲しみをたたえたあのまなざしに出会えただけで私は十分幸せだった。もしもあのとき誰かが、「お前はこれで一生の幸せを全部使い果たしてしまったのだよ。」と言ったら、私は十分納得したことだろう。
  私にできることは諦めることだけだった。諦めることには慣れていたし、それこそが本当の幸せにつながると信じていた。そしてそれは事実、それまではその通りにうまく行っていたのだ。
  そのあと味わった苦しみについてはもう何も語るまい。どんな言葉を借りてきても表現できないし、する必要もないことだ。ただ私は、私以外の誰にもあんな苦しみを味わわせたくない。
  だがその経験のおかげで転機が生まれた。それは私にとっては青天の霹靂だった! 私はあなたを諦めないことこそがあなたを助けられる唯一の道だと信ずるようになった。たとえ誰かに殴り殺されるようなことがあっても決して諦めない・・と。あなたと一緒になることが許されている、あなたに抱きしめてもらえる、あなたに本当の歓びをあげられる、と思うだけで力がみなぎり、勇気が湧き、幸せになれた。それはとてつもなく素晴らしい夢だった。その夢が私をこんなに遠くまで引っ張ってきたのだ。そのおかげで成し遂げることができたすべてのことに私はとても満足している。

  今、私はあなたのまなざしの、息をのむほど美しいまなざしの中のたとえようもなく深いやさしさと悲しみの意味が、その理由がわかりかけている。そのあまりの美しさに私は言葉を失う。
諦めるだとか、諦めないだとか、会いたいとか、抱きしめて欲しいとか、 そんな言葉は完全に無力だ。
私が言えるのはこれだけだ・・・

行きなさい。あなたの信じる道を。そして志を果たしなさい。

        97  7  13          今日子

戻る